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大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)44号 判決 1992年12月24日

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成四年三月二六日付けでなした大阪府泉南郡岬町「深日」「孝子」区域に関する一般ガス供給区域拡張の許可及びこれに伴うガス供給規程の変更認可処分(以下「本件処分」という。)を取り消す。

第二  事案の概要

原告は、Lpガス販売業を営む業者によって構成される協同組合であるところ、大阪瓦斯株式会社(以下「大阪ガス」という。)に対してなされた本件処分は、ガス事業法八条三項で準用される同法五条五号、三号、七号に違反するとして、その取消しを求めている。被告は、原告には本件処分の取消しを求めるについての原告適格がないと主張するほか、右違法事由があることを争っている。

第三  判断

原告が本件処分の取消しを求めるについての原告適格を有するかについて判断するに、原告は、次に述べるとおり、原告適格を有すると認めることはできない。

一  行政事件訴訟法九条は、処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができると定めているところ、同条にいう「当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」とは、当該処分によって自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、右法律上保護された利益かどうかは、当該処分を定めた行政法規が当該原告の個別的利益を保護すべきものとする趣旨を含むか否かによって決せられる。

二  ガス事業法は、「ガス事業の運営を調整することによって、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによって、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ること」を目的とし(同法一条)、そのための規定を設けているが、同法が対象とする「ガス事業」は、一般ガス事業(同法二条一項)及び簡易ガス事業(同法二条三項)をいうとされており(同法二条五項)、同法において運営の調整の対象となるのは、これらのガス事業のみであると解される。同法五条三号は、一般ガス事業の開始によって、その供給区域の全部若しくは一部において又はその供給地点について、ガス工作物が著しく過剰となる場合には、一般ガス事業の許可をしてはならない旨定め、この規定は、供給区域等の変更(同法八条三項)及び事業の譲渡し等(同法一〇条三項)に準用されており、また、簡易ガス事業の許可等についても同様の定めがある(同法三七条の四第一項四号、三七条の七第一項)ところ、ここにいう「ガス工作物」が一般ガス事業及び簡易ガス事業の用に供するものを指すことは明らかであり(同法二条七項)、これらの事業以外の用に供する工作物は調整の対象とはされていないというべきである。また、同法五条七号は、一般ガス事業の開始が公益上必要であり、かつ、適切である場合でなければ、一般ガス事業の許可をしてはならないと定め、この規定は、供給区域等の変更(同法八条三項)及び事業の譲渡し等(同法一〇条三項)に準用されており、簡易ガス事業の許可等についても同様の定めが置かれているが(三七条の四第一項八号)、右のとおり、同法がもともと一般ガス事業及び簡易ガス事業以外の事業を調整の対象としていないことからすると、右規定の適用にあたって、これらの事業以外の事業との調整を考慮すべきであるとは解されない。

ところで、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者が、一般ガス事業者の供給区域において導管でガスを供給しようとするときは、あらかじめ、通商産業大臣に供給の相手方及び料金その他の供給条件を届け出なければならない(同法二五条)こととされているが、右規定をもって、同法に基づくガス事業の許可、供給区域等の変更等にあたり、同法が一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者の利益を考慮すべきものとしていると解することはできない。また、同法は、通商産業局に、地方ガス事業調整協議会を置き(同法四〇条の五第一項)、同協議会は、通商産業局長の諮問に応じてガス事業の開始に係る紛争の処理その他のガス事業者の事業活動の調整に関する重要事項を調査審議し、及びこれに関し必要と認める事項を通商産業局長に建議すると規定している(同条二項)が、同法がもともと一般ガス事業と簡易ガス事業以外の事業を調整の対象としていないことからすると、右協議会の行う調整にこれらの事業以外との調整が含まれると解することもできない。

さらに、中小企業の事業活動の機会の確保のための大企業者の事業活動の調整に関する法律(以下「分野調整法」という。)は、中小企業者の経営の安定に著しい悪影響を及ぼす事態の発生が回避されることとなる措置が他の法令において講じられている業種で、政令で定めるものに属する事業については、同法の適用を除外している(同法一四条)ところ、ガス事業法二条五項に規定するガス事業は、政令によって分野調整法の適用を除外されている(同法施行令二条七号)。これは、すでに述べたとおり、ガス事業法において、同法に規定する一般ガス事業及び簡易ガス事業の運営を調整し、ガス工作物が過剰にならないような処置が講じられているためであり、したがってガス事業法による調整の対象に一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者も含めなければ、右適用除外の理由を説明できないということはない。結局、一般ガス事業者及び簡易ガス事業者とそれ以外のガス事業者との事業活動の調整を含め、調整の対象をどの範囲までとするかは、専ら立法政策の問題であるというほかはない。

以上検討したところからすると、ガス事業法に基づくガス事業の許可、供給区域等の変更等にあたって、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者の利益が考慮される余地はないというべきであり、一般ガス事業及び簡易ガス事業以外のガス事業者は、右の各処分によって不利益を受けることがあったとしても、法律上保護された利益を侵害されたということはできない。

三  弁論の全趣旨によれば、原告は、Lpガスの供給、販売を業とする組合員一九名によって構成されている、中小企業等協同組合法にいう事業協同組合であって、本件処分によって拡張された区域において自らLpガス供給事業を行っているほか、原告の組合員は、右区域において、Lpガス供給事業及び簡易ガス事業を行っていることが認められる。右事実によれは、原告は、右区域において、自らLpガス供給事業を行っているにすぎず(少なくとも本件処分により拡張された区域において自ら一般ガス事業及び簡易ガス事業を行っていることを認めるに足りる証拠はない。)、右二で述べたところからすると、本件処分によって原告の法律上保護された利益が侵害されたということはできないのであるから、原告に本件処分の取消しを求める法律上の利益を認めることはできない。ただ、原告の組合員の中には、右のとおり右区域において簡易ガス事業を行っている者がいるのであるから、原告がこの者に代わって本訴を提起追行することができるかについて検討しておくに、原告は、組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結及びこれに付帯する事業を行うことができる(中小企業等協同組合法九条の二第一項五号、六号)が、原告の個々の組合員の利益の侵害を理由とする行政訴訟の提起、追行は、右の事業に含まれないことは明らかであり、その他原告が右訴訟を提起、追行する権限を有すると認めるに足りる根拠を見い出すことはできないから、原告が簡易ガス事業を行っている組合員に代わって本訴を提起、追行することができるということもできない。さらに、原告は、将来右区域において簡易ガス事業を営むことを企画していたとも主張するが、単にそのような計画があるのみでは、処分の取消しを求める法律上の利益を認めることはできない。

四  原告は、(一)岬町長と大阪ガスとの間には、将来岬町内に都市ガスを供給する問題が生じた場合は、大阪ガスの事業の性格、原告への影響等を配慮し、誠意をもって協議する旨の昭和五五年三月二一日付けの覚書(甲第四号証)が交されていること、(二)「府下の液化石油ガス(Lpガス)販売事業者の育成と営業権の保護に関する件」と題する請願(甲第五号証)が、昭和五六年三月二一日、大阪府議会において採択されたが、その請願は、(1)Lpガス販売事業者と大阪ガスとの事業の競合について、国の関係機関と協議のうえ、調整を図っていただきたい、(2)府が管理占有する道路に大阪ガスから埋設工事のための道路占用許可の申請が提出されたときは、許可に先立ち、営業権を有する中小Lpガス販売事業者と事前協議を行うよう行政指導していただきたいとの内容のものであり、右請願採択ののちに大阪府から大阪ガスに対して、右(2)の主旨を理解して地元中小Lpがス販売業者と協議を行うようにとの通知がなされていること、(三)「液化石油ガス法とガス事業法との整合性を求める請願」(甲第七号証)が昭和五六年六月五日、衆議院及び参議院において採択されたが、その請願は、(1)液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律に基づく供給・消費設備とガス事業法による工作物とが同一であることにかんがみ、国は両法の整合を図り、都市ガス事業者の供給区域の拡張及び供給導管の延長の許可にあたっては、当該地域に所在するLpガス設備の実態を把握し事後に紛争の生じないよう措置されたい、(2)都市ガス事業者が供給区域の拡張及び供給導管の延長を行おうとする場合は、当該地域にLpガスを供給しているLpガス販売事業者に事前に通知するなどの万全の措置を講じられたい、(3)都市ガスへの転換によってLpガス販売事業者の経営に重大な支障を生じる場合には、都市ガス事業者とLpガス販売事業者間で十分な協議が行われるよう措置されたい、(4)家庭業務用ガスに関する通商産業省の行政の一元化について検討されたいとの内容のものであることに照らしても、原告適格を認められるべきである旨主張するが、これらの事実があるとしても、これらは、岬町と大阪ガスとの約定、議会における請願の採択であって、ガス事業法についての右二で述べた解釈には影響しないものというべきである。また、原告は、本件処分に先立つ公聴会で意見陳述の機会を与えられているとも主張するが、仮にそうであるとしても、公聴会は、広く一般の意見を聴く趣旨のものであるから、そのことが原告の原告適格を基礎づけるものとなるということはできない。

第四  結論

よって、本件の訴えを却下することとする。

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